ボツリヌス菌製剤は、歯ぎしりに効果があるのか?
2023年07月29日
歯ぎしりは無意識に強い力を歯や歯茎にかけてしまいます
歯ぎしりには、ボツリヌス菌製剤、正確にはボツリヌストキシン製剤が有効です。
一般にはアロガン社の商品名であるボトックスの方が知られているでしょう。
(セロハンテープでもっとも有名な商品名「セロテープ」のようなものですね。)
この記事では、なぜボツリヌス菌製剤が歯ぎしりに効果があるのかを、ボツリヌス菌との歴史と併せて解説していきます。
歯ぎしりに悩んでいる方はぜひご一読ください。
ボツリヌス菌製剤の歴史
「そもそもボツリヌス菌って何?」という疑問をお持ちの方も多いと思います。
まずはボツリヌス菌の特性や、その特性を逆手にとった例を軽くご紹介していきましょう。
ボツリヌス菌は本来強い毒性を持つ菌
ボツリヌス菌は極めて強い毒性を持っていて、食中毒の原因菌として知られてきました。
ボツリヌストキシンはこのボツリヌス菌が生成する毒性成分の名前です。
また、この強い毒性は生物化学兵器の材料とされることもあります。
その危険なボツリヌストキシンが医療用として使われるようになったのは、毒性のメカニズムそのものが利用できるということがわかってきたからです。
ボツリヌストキシンは神経の伝達物質を阻害します。
つまり、ボツリヌストキシンは神経が働くなることで四肢や呼吸が麻痺することで毒性を発揮するのです。
あえて神経の働きを阻害させることで医療や美容にも有効
このような本来は恐ろしい特性を持つボツリヌストキシンですが、あえて神経の働きを妨害することで、さまざまな医療用途もあります。
当初は、斜視や顔面痙攣の防止、あるいは多汗症の抑制などに使用されました。
そして、次第に神経の働きを妨害すること、つまり筋肉を弛緩させるという作用が、美容分野でも注目されるようになりました。
ボツリヌストキシン製剤は皺とり効果で美容に広く利用されています
たとえば、皺とりです。
皮膚を切り取って引っ張るような外科的方法ではなく、ボツリヌストキシンの筋肉弛緩の作用を利用する内科的な療法効果があることがわかり、注目されてきました。
現在では、ボツリヌストキシン菌製剤の美容目的での使用は、年間数百万例に達していると言われています。
そしてそれだけ多数のボツリヌストキシン菌製剤が使用されているにもかかわらず、大きな事故の報告はありません。
ボツリヌストキシン菌製剤の安全性は、多くの実績に裏付けられていると言ってよいでしょう。
ボツリヌストキシン菌製剤が歯ぎしり・喰いしばりに有効な理由
そのボツリヌストキシン菌製剤を歯ぎしり、喰いしばりのような歯科分野で活用することは比較的最近始まりました。
歯ぎしりや喰いしばりの直接の原因は筋肉の過度の緊張なのですが、ボツリヌストキシン菌製剤の筋肉弛緩作用が有効と考えられるようになったのです。
ボツリヌストキシン製剤は歯ぎしりそのものを止めてくれます。
ボツリヌストキシン製剤の使用開始以前は、歯ぎしり、喰いしばりにほとんど唯一有効な対症療法は、ナイトガード(マウスピース)でした。
しかし、ナイトガードは装着が面倒ですし、睡眠中に唾液が溜まりやすいといった不快な現象も発生します。
さらにTCH(Tooth Contact Habit:上下の歯をくっつけてしまう癖)のように、昼間に歯をこすり合わせるような症状には対応できません。
マウスピースは歯ぎしりの対症療法としては有効なものの…
ボツリヌストキシン製剤の歯科分野での応用の歴史はまだ短いです。
しかし、歯ぎしりや喰いしばりが歯や歯茎に与えるダメージが大きいにもかかわらず、本質的な治療法が長年確立されていなかったことを考えると、今後は広く利用されるようになると予想できます。
銀座並木通り歯科HP