「良い抜歯」と「悪い抜歯」とは?
2022年03月28日
できるだけ抜歯したくないのが本音ですよね
歯をなるべく抜きたくないと思うのは誰でも同じことでしょう。
特に最近は80歳まで20本の歯を残そうという「8020運動」の広がりもあって、抜歯への抵抗は昔よりずっと強くなりました。
1989年から推進されている8020運動が始まった当初はたった7%だった「8020達成者」は今では半数の50%を超えています。
これは口腔ケアの意識の高まりと、歯科医や歯科衛生士の努力の結果と言って良いでしょう。
そうは言っても、時にはやむを得ず抜歯をしなくてはならないときもあります。
抜歯をするのはやむを得ない場合が大半です
そもそも抜歯をしなくてはいけないケースとはどんなときなのでしょうか。
日本人が抜歯をしている主な理由は?
日本人が歯を失う一番の原因は、全体の4割を占める歯周病です。
次は3割の虫歯。
そして、残りは事故による破折や親知らずの抜歯などによるものです。
抜歯を防ぐために口腔内ケアが重要と言われている理由は、歯周病や虫歯の予防になるからです。
特に歯周病の予防には、毎日の歯磨きと定期的に歯石を除去するケアがとても大切。
抜歯を防ぎたいのであれば、日々のケアを怠らないようにしましょう。
歯科医もできるだけ抜歯を避けたいと考えています
世の中には「歯医者は面倒な治療をせず、金儲けばかり考えている」と主張する「歯科の駆け込み寺」を売り物にした本さえあります。
しかし、8020運動達成者が増加している点からも、それは事実に反しています。
実際はほとんどの歯医者は歯を抜かずに治療を進めることをもっとも重視しているのです。
抜歯リスクを下げるには口腔内ケアが基本
咀嚼力や他の歯へ悪影響を及ぼす歯の抜歯は「必要な抜歯」
では、そんな事情がありながらも、どういう時にやむを得ずの抜歯が必要になるのでしょうか。
親知らずも抜歯を勧められるケースが多い
親知らずはまっすぐに生えていれば食べ物を咀嚼する際に役立つ場合もありますが、横向きに生えていると咀嚼に貢献できません。
さらに、奥にあるため手入れが非常に難しく、抜歯を勧められるケースが多くなってしまいます。
親知らずは永久歯の28本の中には数えられておらず、抜歯することが一般的です。
「良い抜歯」=「必要な抜歯」とも言えます
親知らず以外の歯で抜歯を勧められる例は、歯周病で動揺が強い、虫歯で再治療を繰り返すうちに歯質がわずかしか残っていない場合です。
歯周病での歯の動揺は粘り強く治療を続けることで治まってくるケースがあるものの、一定以上の動揺があった際は抜歯以外に選択肢はなくなります。
このような歯は噛む力がなくなってしまっているので、抜歯してインプラント、ブリッジ、入れ歯といった人工歯の装着が必要になります。
また、後者の虫歯再治療の繰り返しで歯質が少なくなりクラウン(被せ物)を装着することが困難になっている歯も、抜歯と人工歯の装着が必要です。
ちなみに歯を失った時に人工歯の装着をするのは、歯を抜いたままの状態で放置すると、噛む力が弱くなるだけでなく、両側の歯が倒れこんでしまったり、反対側の歯が挺出といって抜けた部分に伸びて来たりする恐れがあるからです。
このようなリスクがあるので、すべての抜歯を悪いものと決めつけて避けるのは、咀嚼力のためにも他の歯への影響を考えても好ましくありません。
「良い抜歯」という言葉が不適当なら、「必要な抜歯」と言い換えても良いでしょう。
口腔内ケアを目的とした「戦略的抜歯」も「良い抜歯」の一つ
あえて抜歯をして全顎的なケアをすることも
「必要な抜歯」の他にも「戦略的抜歯」と呼ばれるものもあります。
これは全顎的治療の一部です。
全顎的治療とは、一つ一つの歯ではなく口の中すべての歯の見直しを行い、インプラントや入れ歯、被せ物、そして部分的な矯正治療を行って、咀嚼力、審美性、口腔内ケアを総合的に高めようとするものです。
全顎的治療は歯科治療でも最も高度な治療の一つと言えるでしょう。
抜歯を恐れて治療をしないのはNG!まずは専門医に受診を
全顎的な観点からではなく、残すことができたかもしれない歯を安易に抜歯してしまうのは「悪い抜歯」と言えるかもしれません。
しかし、冒頭で書いたように金儲けのために「悪い抜歯」をするような歯医者は滅多にいません。
少なくともほとんどの抜歯は必要があって行う「良い抜歯」と言っても過言ではないでしょう。
「良い抜歯」か「悪い抜歯」かは、抜歯の理由や口腔内の状態次第によります。
いずれにせよ、抜歯をしたくないあまりに治療をおろそかにして放置してしまうのが一番危険です。
気になる症状が出てきたのであれば、まずはなるべく早く歯科医に相談するようにしましょう。