インプラントに向く人、向かない人
2021年04月16日
歯を失うと、それを補うために人工歯が必要となりますが、人工歯は入れ歯、ブリッジ、インプラントの3種類があります。ブリッジとは文字通り失った歯の両側に橋のように連結して失った歯の部分に人工歯を装着する方法です。
入れ歯は「年寄りくさい」というイメージを持つ人もいたり、装着すると違和感があったり、噛む力が弱いという点で嫌がられることが多かったので、ブリッジは歯を失った時には治療の第一選択肢でした。しかし、ブリッジは橋渡しをするために両側の歯を削る必要があります。また、両側の歯に負担がかかるという欠点があります。
インプラントは咀嚼力、他の歯への負担が小ささなど、天然歯にもっとも近い機能を提供します。また、見た目も他の人工歯と比べて自然です。日本は健康お保険制度が充実しているため、健康保険で治療が可能な入れ歯やブリッジが選ばれることが多いのですが、歯科治療費が高いアメリカではインプラントが歯を失った時には、優先的に選ばれる治療法です。
日本でインプラントが選ばれない理由は費用だけではありません。「異物を入れるのは怖い」、「年を取っても大丈夫なのか」、「チタンは金属アレルギーを起こさないのか」、「フッ素入り歯磨きでチタンネジが劣化すると聞いた」などの懸念を持つ人も少なくありません。
しかし、インプラント治療を何か恐ろしいもののように思ってしまうのは、誤解に基づくものが多いのが事実です。インプラントは50年以上前から行われていますし、最初にインプラントを装着した患者はその後40年以上障害に渡ってインプラントを使用し続けました。
日本でもインプラント治療を受ける人は毎年100万人以上います。インプラント治療は確立された治療であり、機能的には歯を失った時にはもっとも優れた治療法と言ってよいでしょう。
しかし、そのようなインプラント治療を受けることが難しい、あるいは不可能な場合はあります。一つは糖尿病などの代謝疾患や高血圧、や心臓臓疾患を患っている場合です。全身状態に問題があるとインプラント手術のリスクは高くなるため、当院では血液検査を含め提携医院での内科的なチェックをまず行います。骨代謝異常の患者さんの、骨粗鬆症のお薬を服用中の場合はンプラントのお勧めできません。
チタンネジを埋め入れる骨の厚みもインプラントの可否を決める重要な要素です。特に歯周病の進行で抜歯にいたったようなケースでは歯周病で歯槽骨(歯の土台となる骨)が十分な厚みを持っていないことも多く見られます。
ただ、骨の厚みが不足している場合も、骨造成で骨の厚みを確保する治療技術が進んでいます。今後、再生医療の進歩で歯肉の不足している状態にもより幅広くインプラントが適用される可能性が期待できます。
CTによりインプラントの術前のシミュレーションがコンピュータ上で行える
インプラントがこの世に出て50年以上の間に数々の技術的な進歩がありました。その名の一つに歯科用CT(CBCT)があります。チタンネジを埋め入れる顎骨には動脈や神経が通っており、それらを傷つけるリスクは小さくありません。
術前にCTで動脈や神経などの存在場所を立体的に映し出すCT、さらにCTで得られたデータを元に最適な埋入方向を決めるコンピューターシミュレーション、ガイドオペといってそのシミュレーションに従って施術を行うサポートツールも実用化されたことで、そのようなリスクはずっと小さくなりました。
ガイドオペではチタンネジの埋入方向をガイドするツールを装着する
インプラントの障害になる、代謝疾患や骨の厚みに問題が少ないのは、若い人です。若い人がスポーツなどによるケガで歯を失った時、インプラントは最善の選択です。しかし、インプラントの費用が問題になることはあります。
そのような場合でもブリッジで健康な歯を削るより、入れ歯を一時的に入れ、後にインプラントに置き換える方法も検討してよいでしょう。インプラントは優れた治療です。インプラントが可能なら、できるだけインプラントによる治療を行うことを検討すべきでしょう。